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トムプロジェクトプロデュース
「夏きたりなば」
at 下北沢本多劇場 (and 須玉町ふれあい館、小出郷文化会館、かめありリリオホール )
明治座公演が終了して約四ヶ月ぶりのこの舞台。演劇好きにはよく知られる本多劇場という老舗劇場での公演でもあり、またまえちゃん久しぶりの現代劇、かつ出番も多いということで今回も期待度高し。 ほとんど出ずっぱりでまえちゃんの演技を存分に見ることができました。 以下ストーリーですが、ネタバレなのでご注意。キャストを変えたりで上演機会の多い舞台のようですし。 とある休日の朝。山本家では主婦・紀子が部屋の片付けに余念がない。浮いた話のなかった妹の博美が大切な人を連れてくるというのだ。 父親のいなかった家庭で妹の面倒を見てきた紀子としては是非とも事がうまく運んでもらいたい。なんとしてもこの機会を逃させまいという紀子の気迫に、呑気者の夫・正夫とちょっとがさつでマイペースな娘・早苗はややとばっちりを食らった格好。就職せずボランティア活動に精を出す早苗への小言も飛び出す。なんだかんだ言いつつも紀子に言いつけられた用事に取りかかる父娘。結局家族揃って気が良いのだ。だが、進路の話になると手厳しい紀子の態度に、早苗は紀子がボランティア活動というものそれ自体を嫌っているのではないかと疑問を口にする。 家族みんなで来客を迎える準備を続けていると、思ったより早く博美がやってきて慌てる山本家の面々。しかし、博美の傍らに連れの姿はなく、しかも話を聞いてみると大切な人というのは、博美が在宅ケアで担当している榊原という独居老人だった。婿養子に入った先で妻を亡くし、子もいない。足も弱ってきて、遠からず寝たきりになってしまうであろう榊原を山本家に招待して、寂しさを紛らわせてやりたいというのだ。案の定、紀子は良い顔をしないが、早苗や正夫は乗り気。ほだされる形で榊原を招待することに同意する。 在宅ケアの仕事では、お年寄りに覚えてもらいやすいようにボランティアネームというニックネームを使っており、博美は吉永小百合からとって"小百合"と名乗っているという話を聞くと、山本家の3人もそれぞれ"富士子""周五郎""陽子"とネームを考案してかなりノリノリ。更に正夫の発案で、榊原を山本家の"五十六おじいちゃん"として迎え入れ、本当の家族として振る舞う家族ごっこを行うことになる。 家族ごっこの当日。当初はギクシャクした雰囲気だったが、皆すぐに慣れ、一番アガっていた紀子もこの架空の家族に馴染んで来た様子。榊原も頑固という前評判だったが、なかなか茶目っ気のある老人で、この状況を楽しみ始めたようだ。唯一変わっている点は、部屋の中でもカンカン帽をかぶりっ放しで手放さないこと。 テーブルを囲んでお茶を飲んだり、正夫や早苗に肩を揉んでもらったりと、場はどんどんうち解けていく。次第に話も弾んでくるが、榊原が昔は写真屋だったというのを聞いて、何やら考え込んでいた紀子は、やにわに榊原に向かって、公園まで散歩に行こうと提案する。足のことを不安がる榊原に、車椅子を使うから、と熱心に誘う紀子。正夫も加わって3人で出かけることに。 夕立にあった3人が帰宅してくる。車椅子をすっ飛ばして帰ってきた、と3人ともにはしゃいでいる。雨に濡れた榊原を着替えさせる博美だが、濡れ物を受け取った早苗はカンカン帽の中をのぞき込んで一人顔色を変える。一方、榊原は、今日、ここで家族として過ごせてよかったという気持ちを博美に語る。 各々着替えを終えた紀子と正夫も戻ってきて、再び和やかな空気が漂うが、「おじいちゃんなんでしょ、本当の」という早苗の叫びで雰囲気は一転。それでも"家族ごっこ"を続けようという紀子。榊原が自分と博美の元を去った父だと紀子は気付いていたのだ。そして、博美も正夫も、榊原自身もそのことを知っていたのだ。 父は自分たちを捨てたのだ、と長年ためこんできた感情を吐露する紀子。そんな姉に懸命に語りかける博美。 ボランティア的活動に精を出していた榊原は、そのことが遠因となり写真を撮ることをやめてしまい、家を出ていかざるを得なくなったこと。それは父の責任ではなく、紀子もそれはわかっているはずだということ。在宅ケアの仕事で偶然父に再会し、親子の名乗りを上げないまま、見守ってきたこと。そして、父を山本家の家族に、紀子に会わせたくて、今日の招待を計画したこと。 長年のわだかまりを捨てきれない紀子に、早苗が語りかける。おじいちゃんはお母さんのこと忘れてなんかいないよ、と。カンカン帽の中には少女時代の母の写真が忍ばせてあったのだ。更に正夫が言葉を継ぐ。紀子は頑張ってきたから、誰かをつっかい棒にしなくてはならなかったんだよな、と。言葉を出さず、ただ涙を流す紀子だが、場の空気がどこか緩む。 そこにケアサービスから榊原への迎えが来る。みんなに感謝の言葉を述べた榊原が、暇を告げる。手を貸そうとする早苗や正夫を制止し、自分の足で歩み去ろうとする榊原。博美は紀子に杖を手渡す。なお動けないでいる紀子だが、玄関口に榊原の姿が消えると、杖を手に居間を駆け出していく。早苗、正夫も榊原の後を追う。残された博美も、雨上がりの夕焼けを一瞥すると皆の後を追って部屋を出ていった。 という感じで、テーマを言葉にすると「家族の絆」とかそういうことになるんでしょうが、登場人物いずれも、コミカルでありつつ等身大の、実在感のあるキャラクターで、山本家という家族自体も、こんな家族いそう、と思わせてくれます。冒頭の早苗と紀子、正夫の会話や小言なんかはいかにも年頃の娘と親のやり取りという雰囲気で、人物に感情移入しやすく、それだけに後半の展開では結構泣き入ってたお客さん多かったようでした。 どんでん返しの部分は、割とはっきり物語途中でそれを示唆する場面がいくつかあるので、気付いた人のが多いんじゃないかと思いますが、むしろそれはある程度折り込み済みっぽく、「実の家族なのになぜそれをお互い伏せたまま家族ごっこをやっているのだろう」というあたりに思いを馳せながら観ると味わいが増すように思いました。 終盤は長セリフのぶつけ合いで、榊原が家庭を捨てることになった経緯などがえんえん語られるので、中盤までのテンポの良さは少々失われてしまいますが、中心になる姉妹役の仁科亜希子さん、小林美江さん、共に演技が素晴らしいので、その熱が伝わってきて感動させられる感じ。登場人物一人一人に対する目線の温かさが感じられるお芝居でした。、コミカルなパートではお父さんとおじいちゃん、男性陣二人がお茶目でかわいらしくお気に入り。 まえちゃん演ずる早苗は、ズボラでガサツなところもあり、親の言うことをはいはいと聞くタイプのよい子ではありませんが、その分自分をしっかり持っているし、元気で明るく、ヒネたところのない好感の持てる娘さん。舞台上に華を添える、というだけの役ではなく、しっかり家族の一員としてお話に絡んでくるあたり、観劇し甲斐がありました。作られたキャラクターというより、本当にいそうな人物像で、演技の方向も、過剰になりすぎず、自然な存在感を醸し出すといった感じで、稽古の成果かよく役に馴染んでたと思います。 クライマックスではセリフこそあまりありませんが、役者さん全員、目を潤ませながらの熱演で、まえちゃんも表情観てるだけでもなかなか胸に迫るものがあったと思います。出番が多かったこともあって、ブランクを感じさせず、むしろ力をつけたかも、という明治座などで受けた印象が確かなものであったと確認できたのが嬉しい。ずっと女優としての研鑽も怠ってなかったのだな、ということも思ったし、年齢重ねて人として成長したことがフィードバックされてるのかな、とも。実に活き活きと演技していました。 ともあれ、こうしてまた、舞台でまえちゃんの姿が見られるようになったことが嬉しいですね。これからも良い舞台に出会って、女優として更に成長していって欲しいものです。 |
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